古い患者さんから「叔父が腰を痛めて困っている。トイレには歩いて行っているらしいので、往診を願えませんか?」と依頼があった。善は急げ、その日の夜8時に往診に出かけた。
玄関を開けてすぐに細い急な階段があり、2階にあがった。そこには両膝に両手を当ててゆっくりと一歩一歩椅子に向かう85歳の患者さんがいた。
問診
5年前から腰を痛めて通院していたが、正月から急に両足にしびれと痛みが走り、夜はトイレに這っていく状態だという。今日も整形にタクシーで通院したが、余計に痛くなったという。服薬は痛み止め・安定剤・睡眠薬・降圧剤・糖尿病治療薬。
台所の椅子に座って治療を始めた。
主訴
特に右足全体が痺れて鈍痛があり、立ちあがろうとすると激痛が出る。
脉状
浮・洪にして革を帯びやや促。
奇経診断
右照海・N―左列缺・Sで脉が締まる方向(明らかに診断は腰椎ヘルニアである)。
証
腎虚単一証左右(左然谷ー右魚際)
座位にて腰の治療を始めてすぐに「こうやって座っていても右足がだるくて痛くて」と訴える。座布団をひいてもらい、横向きで治療を継続し終了した。
翌朝わかることだがこのとき
➀いつもは上向きで寝ていて楽にもかかわらず腰が曲がっているので横向きで寝ることを薦めた
②胃痛があるというので痛み止めをやめて寝ることを薦めた。
この2点の勧めは明らかに裏目に出たのだ。
2診目
翌日、早朝7時から往診。
「朝起きようとしたが全く動けない、立ち上がれない。」と訴える。いつもは上向きで寝ているが横向きはつらかったという。治療は寝床で同様に、左下横向きと上向きで行ったが手ごたえがない。
3診目
その日の夜8時、寝床で横になったまま「全く変わらない、寝返りもままならない。這うこともできない。」という。脉状も浮洪にやや数が増え熱が出てきた。
奥さんも骨折の後遺症で腰痛がひどく、二つ折れで台所もままならないうえに難聴であり介添えもできない。
息子さんは隣の棟に住んでいるが独り者でカリカリして、母親を私の前でもなじり子突くのには眉をひそめたくらいで介添えなど期待できない。遠く往診の上にじっくり構えて養生をしながら治療を継続しないと無理な病態と家庭環境であると判断した。
3診目の治療後、息子さんも呼んで3人に「申し訳ありませんが私の手におえません。入院をお勧めします」と治療できない旨を伝えた。
「姪の紹介なので期待してたのに」と悔やまれたが、「申し訳ないです」と頭を下げて複雑な思いで急な階段をゆっくりおり玄関を後にした。夫婦してゆっくり病院で養生治療すれば必ず復活できるだろうと、そのほうが絶対にこの患者さんにはいいのだと。
それにしても3回の治療の内容にも問題があった。
➀治療姿勢
②はりのドーゼオーバーである。
そしてそこには「これくらいの病証は・・・」という慢心があったようにも思う。初心忘るべからずである。反省!
初出:2017年01月27日
最後までお読みくださりありがとうございます
↑クリックしていただけると励みになります